泣いて泣いて泣いて
すん、と鼻をすすった。なんだかすっきりした気持ちがある。こんなに泣いたの、どのくらいだろう、と考えながら、ピー、と云う電子音を聞いた。あ、炊けたんだ。セットしておいた炊飯器を開けば、ほわほわ、と蒸気とお米の匂いが立ちのぼる。ん、いい匂い。ちょっと強ばった頬を動かして微笑んだあと、ぱたぱたと動いた。水をお椀に汲んで、塩と梅干を小皿に取り分けて、炊き上がったばかりのごはんを濡れた手のひらにのせる。
あ、ちち、とごはんをはずませながら、こわごわ、おむすびを握っていく。途中、我慢できなくて、まだ海苔も巻いていないおむすびにかぶりついた。だって、泣き過ぎでお腹空いてたんだもの。ごはんと梅干の、ちょっと濃い味がうれしい。やっぱりごはんは日本人の心だとしみじみ感じる。塩味は、先ほどまで流していた涙と同じ。でもさすがに、感傷的な気持ちはまったく出てこない。代わりに大きく響くのは、意欲盛んな食欲を訴える音。ま、あれだけ泣きましたからねー。でも、さ。
(もう少し、殊勝になれないもんかな)
あれだけ傷ついたんだ。あれだけ泣いたんだ。
だからもう少し落ち込んでいてもいいはずなのに、いまのわたしときたら、お腹を満たすことばかり考えている。
……うん、でも、悪くないんだ。
とんちんかんな慰めをかけてくるひとではなく、空腹を満たす食物を必要としていられる、そんなわたしでいられて。
(よかったなあ、わたし)
泣いて泣いて泣いて。そのあとには、独りでも立ち上がることができる、自分に気づく。
017:泣いて泣いて泣いて▼
(現代もの 強い女の子)
前回のお題から今回のお題まで、かけた日数を確認していただけたらお分かりかと思います。すっげー、難産でした。もともと感情的になった登場人物が苦手、と云う特徴もあります。ひたすら号泣している瞬間は言葉を失っている、と云う認識もありました。声高に泣いている描写だけは書きたくなかったのですね。お風呂のなかで泣き続ける、という状況も考えた。でも結局、泣いた後の描写となった次第です。力いっぱい泣いたらお腹空くんだよなあ、としみじみ思い出しながら書いてみたり。
2012/05/27