読み切り短編小説– category –
-
読み切り短編小説
吾輩は主人である。
吾輩は主人である。名前など訊くな、無礼であろう。 だがどうしても知りたいと云うなら応えてやらないわけでもない。ただし、無償で吾輩の名を得ようとは考えておるまいな?真に望むならば、貢物をするがよい。 そうだな。吾輩の下僕が時折持ってくる『猫... -
読み切り短編小説
魔王さまの教育係
灯りを落とされた廊下に、ちいさな軋み音を立てて扉が開く。 そっと姿を現した長身の男は、深夜にもかかわらず、外出着をまとっている。きょろきょろとまわりを見渡し、素早く部屋から出て歩き出した。しばらく歩いて、辿り着いた先は中庭だ。夜露に濡れる... -
読み切り短編小説
文書を飾りましょう。
はるかいにしえ、当時はまだ高価だった紙を賜った才気煥発な女性は後世にまで残る随筆を書き記したという。 現代に生きていたときには首をかしげたエピソードだったけど、ここ、ルーナ・トワに流されてから、その気持ちが身に染みてわかるようになった。ク... -
読み切り短編小説
四月馬鹿の話
エイプリルフールは嫌いだ。毎年、この日に盛り上がる友人を眺めてわたしは呆れている。なんでそんなに嘘をつきたがるかね。冷たく告げたら、友人はきょとんとして、にかっと笑う。 「だって楽しいだろー? 嘘だってわかりきっているのに、右往左往するや... -
読み切り短編小説
walking
すでに明るくなっている空だ。それでもまだひやりと冷たい空気の中に足を踏み出す。ほわ、とコーヒーの匂いがする息を吐きだした。おかげさまで意識ははっきりとしている。まだ通り過ぎる人は少ない。 耳にイヤホンをつけようとした。けれど結局止めておい... -
読み切り短編小説
lullaby
低い調べが、聴こえる。耳触りのよい女の声だ。彼にとって母よりも妻よりも馴染みのある響きは、人でありながら巧みに楽器の調べとなる。うっすらとまぶたを開けると、茜色の陽が斜めに差し込んでいた。きらめく。まばゆくて目を細める。 その視界に若い女... -
読み切り短編小説
friends
友達親子って知ってる? テレビを眺めながらそう問いかけると、なんだそれ、という言葉が返ってくる。親が親としての威厳を捨てて、友達のように子供と接することが増えているんだってさ。へえ、と応える一浩の答えを聞きながら、わたしはテレビの電源を切... -
読み切り短編小説
ceremony
とびきり綺麗にしてください、と、美容院に飛び込んだ。外にある値段表を見て、いままで気後れしていたところだけど、「かしこまりました」とだけ答えてくれたことにほっとする。でも初めての美容院だから勝手がわからない。少し迷い、時間にかなりの余裕... -
読み切り短編小説
Contact Story
[惑星ホゥリア]地表面積の八割を海洋が占める開発途上の辺境惑星。星歴342年アル・ザンク船長の「アルシャーク」によって発見される。星歴356年地球から約500万人の移民を受け入れる。 温かなコーヒーの煙が落ち着いた雰囲気の部屋の中で揺れていた。オフ...
12