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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

宝箱集配人は忙しい。

目次

10

 僕は息を吐いて、ソファから立ち上がった。自分の席に向かおうとして、部下たちが僕に注目していると気づく。どうしたんだろう。まあ、ちょうどいいか。僕は口を開く。

「三十一層の封印を解いてもらうことになったよ」

 そう切り出せば、みんなの顔が引き締まった。どの顔も闘志にあふれている。

 頼もしい限りだ、と感じながら、僕はニヤリと笑う。

「勇者の旅立ちが決まったから、解析せずにすんだ。そう考えた者はいないだろうね?」

 僕の言葉に、部下たちはいっきに噴き出した。

「それはありません、室長」
「むしろ机仕事から解放されることを喜んでますっ」
「少々、残業することになっても大丈夫ですよぉ」

 次々と返ってくる前向きな言葉に、僕は浮かべていた笑みを苦笑に変えた。そのままそばに控えてた秘書どのに視線を向けると、いつも通り、落ち着き払った態度で頷いた。

「では、解析の編成は、明後日に発表する。各自、健康管理に気をつけながら、日々の職務をまっとうするように。……それでよろしいですね?」

 秘書どのの言葉に頷いて、僕は今度こそ、自分の席についた。

 この宝箱管理室に勤務している人数は、僕を含めて十二名。四人パーティーを三組作ることができる。さて、どんな編成にするか。前回の解析内容と照らし合わせて、より効率的な組み合わせにしなければ、と考えていると、なぜだか自分の席に戻らなかった秘書どのが、「室長」と短く呼びかけてきた。仕事に戻った皆を気遣ってだろう、いささか音量を抑えた呼びかけに顔を向けると、奇妙に緊張した表情で、僕をみている。

「その、迷宮解析の編成なんですが」
「うん?」
「……室長と同じにしていただくわけにはいかないでしょうか」

 思いがけない申し出に、僕はパチクリと瞳をまたたかせた。

 僕の戦力、秘書どのの戦力。スキル。バランス。装備。

 もろもろの要素が頭によぎって、渋面を浮かべてしまった。率直に言えば、僕と秘書どのを同じパーティーにする意味はないと思う。どちらも盾役、攻撃役、回復役を行えるオールラウンダーだ。そういう人間は、むしろパーティーのバランス調整に役立てたい。

 とはいうものの、わざわざ秘書どのがそう申し出たからには、なんらかの理由があるんだろう。じっと見上げてみたところ、秘書どのは少々気まずげな様子を見せているだけで、その理由を話そうとしない。理由がわからない以上、特別編成する意味が見出せないんだけど、と言おうとしたときだ。部下の一人が、「あ」と思い出したように告げた。

「室長。ちょっといいですか。俺、盾役の装備を揃えたんですよ」
「うん?」

 僕が首を傾げると、その部下は飄々とした様子で続ける。

「や、いままでは攻撃役しかできませんでしたが、興味がありまして。で、盾役もこなせるように、コツコツ装備を集めてたんですわ。実戦で試したいから、今回の解析から盾役に回してもらえませんかね?」

 驚いた。確かに盾役に興味を示していた部下だけど、本格的に動いていたとは。ふと思いついた。もしかしたら、これまで経験してない役目で迷宮を解析したい者がいるかもしれない。としたら、改めてみんなの希望を聞くべきだろうか。ひとつ頷いて僕は決めた。

「これから用紙を配る。みんな、その用紙に、名前と、希望する順に役目を書いてくれ。ただし、希望者の数によっては希望した役目につけないかもしれない。また、今回、初めて経験する役目になった者は、十層から挑んでもらう。練習を重ねたと言っても、他のメンバーとの連携までは練習できてないだろうからね」

 そう言ったところ、不満を浮かべた顔はなかったから、僕は机から用紙を取り出した。ただの白紙だけど、まあ、問題はないだろう。秘書どのが動いて、僕から用紙をとりあげた。パラパラと手際よく、用紙を部下たちに配り始める。

 戻ってきた秘書どのに、僕はささやいた。

「というわけだから、結果、別の編成になっても文句を言わないように」

 秘書どのは麗しい顔に苦笑を浮かべて、「かしこまりました」と応えた。

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