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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

宝箱集配人は忙しい。

目次

19

「これまでと趣が違いますね」

 部下の一人がそう言うと、皆がうなずいた。

 僕は壁に近寄って軽くノックしてみた。コンコンと響く音は軽やかなもので、間違いなく木造だと感じさせる。状態もいい。東の国には千年以上現存している木造建築物があるという。だから不思議ではないけれど、長期間、密閉されていた状況にもかかわらず、腐敗していない事実に驚きだ。たぶん湿度管理がしっかりされているんだろうけれど、と考えながら、明かりにも視線を向ける。松明かと思えば、炎じゃない。似せて作られた照明道具だ、と気づいたところで、思わず感嘆のため息をついていた。

「古代文明か……」
「おそるべしです。どれだけ発達した技術があったんだろ」

 正直に言えば、以前の僕は古代文明にあまり期待していなかった。

 一度、滅びた文明だ。致命的な欠陥があったのではないかと疑っていた。それでも卓越した技術を目の当たりにするたびに、そんな疑惑は見当違いだと感じてしまう。そのくらい、素晴らしいものだった。同時に、懸念が起こる。

「これは、宝箱の形状を変えたほうがいいかな」

 僕がそういうと、皆の顔がキリリと引き締まった。

「木製の宝箱に、ですか」
「正直、用意が大変だと思いますよ。これまでの宝箱より壊れやすいですし」
「とはいえ、確かにこの変化を見たら宝箱がそのままというのも不自然かも」

 僕たちはそんな会話を交わしながら、あたりの様子を記録しながら、先に進んだ。

 そんな時間が続くと、奇妙な気持ちになる。今、僕たちは気配を隠蔽していない。だとしたら、そろそろ魔物が出てもおかしくない頃合いなのだ。なのに気配がない。

 ずっと沈黙を守って僕たちを先導している秘書どのが、唐突に足を止めた。

「室長。聖水の用意は」
「あるよ。……って、まさか」
「そのまさかです。ここを守護している魔物はホーントのようです」

 その言葉を聞いて、視線を向ければ、離れた位置に出現したホーントが数体がいる。

 ホーントとは、実体のない魔物の総称だ。霊体だけで存在する魔物だから、一般的な武器は通用しない。通用する攻撃は特殊な術式や破邪の金属である銀の武器だけになる。

 用意させた装備に、銀製の武器は入っている。それぞれ顔を見合わせて、装備を入れ替えた。とはいうものの、正直、厳しいと感じている。ホーント出現の可能性を考慮していたとはいえ、聖水には限りがあるし銀製の武器はいささか強度が頼りない。

 まあ、この第一戦は問題はないだろうけれど!

 盾役を担当している秘書どのが、魔物たちの注意を引く。僕はみんなにダメージ遮断の術式をかけた。秘書どのには特に念入りにかけたところで、戦闘が始まる。

 ホーントは五体いた。四人パーティーの僕たちより数が多い。とはいうものの、そのための役割分担だ。秘書どのが魔物たちの注意を一身に集め、攻撃役が魔物たちに攻撃を仕掛ける。回復役の僕はメンバーの体力と状態に気を配りつつ、聖水を用いる術式で攻撃も仕掛ける。回復役が使う攻撃術式はホーントに有効なのだ。

 それぞれが得意とする役回りで戦闘したため、初めての戦闘は滞りなく終了した。

 僕たちは装備品の痛み具合や使った道具の残量を確認し合う。まだ数回は戦闘できる状態だと再確認した後、ホーントの出現ポイントなどの情報を記録して先に進んだ。

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