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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

宝箱集配人は忙しい。

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 戦闘を繰り返しながら、奥に進む。今回、解析を進めている三十一層は比較的素直なダンジョンだと感じた。ひねくれたギミックがない。隠し部屋は存在していたけれど、すぐに理解できるギミックだったから、この階層の解析はすぐに終わるんじゃないだろうか。

「室長。解析予定の階層を増やしますか」

 ちょっと開けた場所に出たから、僕たちは休憩をとることにした。

 周辺を警戒しながら、交替で食事を摂る。僕が食事を始めたタイミングで、秘書どのが話しかけてきた。口の中にある食べ物を咀嚼し、飲み込んで、僕は答える。

「解析がこの調子で進むなら、それも考えたほうがいいかもしれないね」

 ただ、僕には疑惑がある。本当に、三十一層はこの程度の難度なのか。これまでの解析パターンを考えれば、階層が進めば進むほど難度があがると予想できる。それが急に難度を下げるなんてありうるだろうか。あり得ない、と考えつく理由は、ドラゴンだ。

 彼女は真剣に自分の後継者を求めている。いくらお人好しのドラゴンとはいえ、冒険者の力量を鍛えたがっている彼女が、今さら攻略難度を下げるなんて、あり得ないだろう。

「あの、ちょっとよろしいですか室長」
「うん? なんだい」

 周辺を警戒している部下が口を開いたから、僕は先を促した。

「この階層の魔物はホーントばかりでした。わたしには、その、まるでこの階層を損なわないために、ホーントが選ばれているように感じたんです」
「……そうだね」

 部下の発言は、すでに僕も気づいていた内容だった。

 ホーントとは実体のない魔物の総称だ。だから倒した時も痕跡を残さずに消える。死体を残さないから、結果、あたりを汚さない。木造の建築物は、維持に気を遣う。腐敗しないように気を配る必要がある。だからこその選択かと考えていたんだけど。

「だから、その、この階層を損なうことで開ける道があるのかなって」

 部下が続けた内容は、まったく思いつかない視点だった。

 僕は思わず動きを止めたし、話を聞いていた他のメンバーも驚いた様子で部下を見た。いっせいに注目を浴びたことで、どうやら萎縮したらしい部下は、「すみません、考えすぎですよね!」と言って首をすくめたけれど、僕は首を振った。

「そんなことはないよ。きみの意見はとてもありがたい」

 そう言ったら安心したように表情を緩める部下から視線を外して、僕はまだ先に続いている道を見つめた。興味深い意見だ。だけど、まだ全体の解析が終わっていない今、検証できない意見でもある。まず、全体を把握して、それから部下の気づきを確かめよう。

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