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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

宝箱集配人は忙しい。

目次

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 まあ、単純な話だ。

 僕は強化の術式を皆にかけた。とりわけ効果の強い術式を、攻撃術式の使い手にかける。これで彼女の術式は強化されたはずだ。とびきりの大技をしかけてやれ、と指示を出せば、僕の意図を汲み取った部下は、自身でも強化の術式を使って二重がけしたあと、知りうる限り最強の術式を使った。レヴァナントが愉快そうに目を細める。パキィインと遮断の術式が弾ける音がする。同時に、秘書どのが強烈な一撃を叩き込んだ。

 ようやくレヴァナントに攻撃が入った。レヴァナントがとっさに掲げた腕、レヴァナントの左腕が落ちたのだ。秘書どのの攻撃が、切り落としたのである。

 よし、と思った。少なくとも、こちらの攻撃はまったく無意味というわけじゃない。工夫次第で相手の術式を壊す証明ができた。もちろん僕がそうするように、レヴァナントだって再び、遮断の術式を使うだろう。そうしたとしても、また、壊せばいい。

 ----フン。

 レヴァナントは右腕を振り回すと、空気の塊が波形になって僕らに襲い掛かる。僕がかけた遮断の術式は間に合った。でも再び弾ける。続いて攻撃が来たら間に合わない。もっともレヴァナントは落ちた自分の腕を拾い上げると、ぐるりと僕らを見回した。

 ----我の腕を落とすくらいはできるか。ならば、ぎりぎりの及第点をくれてやろう。あるじどのの言を受け入れるのもやぶさかではない。

 そう言ったレヴァナントは、拾い上げた腕をまだ残っている左腕部分に添える。そうして僕たちに聞き取れない詠唱を唱えることによって、その腕をくっつけた。

 凄まじいな。僕はそう考えた。

 今の詠唱は、古代文明が残した術式だと理解できた。この術式が広がれば、救われる人は圧倒的に増えるだろう。そのくらい凄まじい威力のある術式を、魔物が扱う。今後の解析を考えた。他の冒険者たちが攻略を進める状況も考えた。

 ここで、攻略は止まるかもしれない。そう考えたら、僕は口を開いていた。

「あなたは今後も、ここで攻略相手を務めるつもりですか」

 部下たちの視線が僕に向かう。レヴァナントは口端を持ち上げた。

 ----さて。どうしたものかな。

 そう言ってレヴァナントはゆったりと腕を組む。くっつけたばかりだというのに、ごく自然で滑らかな動きだ。この術式を、ぜひとも迷宮の外に広めたい。僕はそう感じた。しかし、とも思いつく。劇的な効果のある術式だからこそ、劇薬になるかもしれない。

 ただ、それでも。

「引き続き、僕たちに続く者たちの力量を測るおつもりならば。あなたを心の底から満足させるパーティーがいたら、その術式を報酬として与えてもらうわけにはいきませんか」
「室長?」

 これまで、僕たちは自分たちで用意したアイテムを宝箱の報酬にしてきた。結果、魔物を倒したところで報酬を得られないから、魔物との戦闘そのものを避けようとする風潮が冒険者たちの間に高まってきた事実があると知っている。

 だが、それではダメなのだ。この迷宮の真実を解放するには、古代文明の叡智を現代に生きる僕たちが受け継ぐためには、ドラゴンが僕たちを認めるほど、強くならなければならない。つまり、魔物との戦闘は必要なのだ。回避されては、目的を達成できない。

 魔物を倒したら、報酬を得られる。そういう図式も、組み入れるべきなんだ。

 だから僕は、この魔物に取引を持ちかけた。

 ドラゴンをあるじと仰いで言葉を操る、身体の激しい損傷を修復できるほどの術式を使いこなす魔物に、これからを考えて提案したんだ。

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