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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

宝箱集配人は忙しい。

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 人間の器って、自分の間違いに気づいた時に現れるもんだ、と僕は考えている。

 だからこのとき、王女さまがどういう行動に現れるのか、興味深く捉えていたんだ。少々下世話な好奇心だけど、王女さまの勘違いに振り回された身には、このくらいの好奇心は許されるんじゃないかな。神妙な表情の下で、僕はそんなふうに考えてた。

 己の勘違いに気づいた王女さまは両手で口元を押さえた。

 ぱあっと顔を赤くして、同時に、どこかほっとしたような表情を浮かべる。

 正直な人だな、と僕は考えた。僕が男で、勇者と僕は、王女さまがやきもきするような関係ではないと気づいたから、こんな反応になったんだろう。ある意味では微笑ましい。

 ただ、薄氷を踏んでいるような気持ちにもなる。もしも王女さまが考えていたように、僕が本当に女性で、勇者と親密な関係だったら、どう動くつもりだったんだろう。

 昨夜、兄王子が僕の追跡を制止したにもかかわらず、おそらくは父王にも叱責されただろうに、今朝、王宮に僕を招いた王女さまの行動は軽率というしかない。

 背後に控える侍女は、先ほどから王女の行動をたしなめてもいる。けれど、最大の愚行、僕を招くという行為を許してしまったのだから、中途半端だな、と僕は感じた。少なくとも、部下がこんな半端な行動をしていたら、僕は叱責していただろう。

 でも侍女は僕の部下ではないし、王女さまは僕が責任を持たなければならない相手でもない。だから僕は静かに王女さまの反応を待っていた。身分差ってのはありがたいものだ。身分が高い人間が何かを言い出すまで、身分が低い人間は待つだけでいいのだから。

 短くはない沈黙のあと、王女さまはそろそろと両手を口元からおろした。静かに呼吸を繰り返して、キュッと唇を引き結んだ。そうして、言ったんだ。

「ヴァーノン室長に訊きたいことがあります。----冒険者ギルドに、勇者さまと懇意にしている女性はいらっしゃるのかしら」

 さて、困ったぞ。

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