廃園遊戯– category –
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廃園遊戯
スティグマ
竜の居る島は、だんだんと遠ざかっていく。船尾からその姿を眺めて、アルセイドは踵を返した。 途中、行き過ぎる船員たちに手をあげて、ひとつの客室にたどりつく。一級船室にあたるその場所は、少女が与えられた客室だ。すうっと息を呑み、こぶしで扉を叩... -
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長い夜
身体を揺さぶる感触が、思ったより強い刺激だった。 ピクリと眉間を震わせ、アルセイドはまぶたをあげる。思わずあげそうになった抗議の声は、ドゥマの真剣な表情を前にして消えた。そして低く響くその音に気付く。こみ上げる吐き気を抑えて、ゆっくりと起... -
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主従
ピーと天高く鳥の音が響く。 礼拝堂の天窓に黒い影がよぎった。あれは何の鳥だろう。どこまでも高く、どこまでも広く、飛んでいく力を持つ鳥の名は。 (まるで、あなたのようですね) ミカド、と声にならぬ声でアルテミシアは呼びかけていた。それだけで唇... -
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聖杯
洞窟から出ると、すでに陽は暮れていた。満天の星空に銀色の月が浮かぶ。 うつくしかった。 アルセイドはしばし目を細めて、そして歩き出す。続く足音はない。左手をあげて、頬を抑えた。叩かれた感触は軽く、痛みはほとんどない。その事実が心を痛めつけ... -
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南にある町
この町、唯一の食堂の朝は早い。 夜が明ける前から女主人は起き出し、朝食の下ごしらえを始める。掃除は前日に済ませているから、ゴミ袋を出すだけだ。 働きに出る前の男たちは案外によく食べる。野菜を切り、パンを焼き、燻製肉と卵を添える。それだけが... -
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砂漠の水
「雨が降りませんね」 すべての事後処理を終え、3日が過ぎた日のことだった。昼食を持っていくと、ぽつりと有能な副官が呟いた。その言葉を聞きとがめてエミールは目を瞬かせた。その言葉の意味を訊ねようとして、その前に渡すべき盆を思い出した。 「副官。... -
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英雄
「将軍〜、どこですかぁ~」 雲ひとつない見事な青空だった。からりとした空気に流れる風は心地よい。だからうっとうしいのは、すでに泣きが入っている自分の声だけだろうと若者は思う。 (皆さんもひどいよなあ。僕なら見つけられるって、そんな根拠はど... -
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夢
恩人なのだ、と、巨体を見上げる少女は呟いた。船員たちは傍にいない。島の探索に出たということもあるが、なにより、少女の様子に気を遣ったのだ。 アルセイドだけが少女に寄り添って、ゆっくりと呼吸する大きな身体を見つめていた。 流れる優美な身体、... -
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竜の眠り
雨が降り出す前の空気に似ている、と、感じた。 けれど、と、アルセイドは続いて思う。こちらの空気の方がよりかぐわしい。これが生まれて初めて感じる、海の匂いだ。潮の香り、潮の風、共に前方から後方へと流れていく。 不思議だ、と思う。湿っている空...