MENU
「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

楽しかったよ!!!

お試しで付き合ってくれませんか、好きになってくれるまでなんて言いませんから。

今の彼女と付き合い始めたきっかけは彼女からのそんな言葉からだった、というと、大抵の友人が引いた。

「ないわー。そんなことまで言わせる男って、ないわー」
「つか、何様だよってぇの」

唯一、長い付き合いの幼馴染みだけが意味ありげに笑うだけだった。追求はしてない。考えていることを素直に吐き出す野郎ではないし、タチの悪そうなコメントにげっそりするのはまっぴらだ。そこそこの危機回避能力は、俺にも備わってるのである。

もとい。お試しで付き合ってくれないか、といってきた俺の彼女。
とにかく大抵の友人が勘違いしているように、俺も勘違いしてた。
彼女は今時奥ゆかしい人間なんだと思っていた。初めは。

今は違う。そんなところ、彼女にはない。
だから正直なところ、奇妙な子だな、と会うたびに考えている。

お試しで付き合ってくれ、といったわりには、遠慮なんてない。綺麗にメイクしてるくせに、寝癖をつけたままデートにやってくることもあるし。食事だってちまちま食べたりせず、時には、俺も顔負けの量を平らげたりする。なんだよ、あの、甘いとしょっぱいの繰り返しだと無限に入るんだという論理は。んなわけねーだろ、胃袋の大きさが味付けで変わったりしねえよ。食べ過ぎて公園でダウンしている彼女に呆れてそう言えば、なぜだか嬉しそうに「そうですよね」と笑ってみたりする。

変な子だ。
でも付き合いやすい子だった。

変なところで真面目なくせに、変なところでいい加減で。

だから、そんな子から「ありがとうございました。終わりにします」と言われた時、ちょっと呆然とした。
だって何が終わったのか、なんで終わったのか、わからなかったから。

友人が「やっぱりなー」とか「ザマァ」とかいっていたけれど、幼馴染みだけがやっぱり意味深に笑う。
あの笑顔、めっちゃはらたつな。何でもかんでもわかっているような感じ。

でもそうだよ。認めてたんだよ。
彼女との時間は、とっくに楽しかった。

楽しかったんだよ!!!

でももう終わりにします、と言われたんだ。どうしたらいいなんて、もう、答えが出てる。
それでいいのか、とも言われる。うるせえよ、もう終わったんだよ。

楽しかった時間はもう戻らなくて、彼女と会うことももうない。
だって楽しかっただけで、俺は同じ想いになったわけじゃないから。

ーーーーありがとう、って思ってる。

それだけだ。無造作に見えて、たくさん気遣ってくれた彼女の決着を、無視してはいけないだろうとせめて思う。

だから、サヨナラのままなんだ。何年経っても。
楽しい気持ちがあって、感謝があって、それを見越して彼女も決着をつけたのだろうから。

032:楽しかったよ!!!▼
(現代もの。男子高校生)

このお題を見たとき、顔だけはいいイケメンくんの、必死になった声で言う「楽しかったよ!!」が閃きました。で、どういう状況かなあと考えたら、つらつらとこんな感じに。よりを戻そうとか、そういうのはナシです。彼女の中では終わっていたし、どうしようもない彼でも、それはわかってるから。気づかない部分で好きになってるのかもしれないと思ったけれど、そこまで人の気持ちを無視する男の子でもありませんでした。

2019/10/07

目次