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「24時間、料理の注文を承ります。」

公開している創作を大幅に書き直して、2022年11月、文芸社より発行していただきました。

現在、発売中です。

試し読み

私の名前

お試しで付き合ってくれませんか、好きになってくれるまでなんて言いませんから。

彼との始まりは、そんな言葉で始まった。
我ながらバカだなあって思う。なんでそんな言葉を告白の言葉に選んだ、って自分でも思った。

でも正直なところ、他の言葉が思い浮かばなかったんだ。

なぜって、相手を好ましいと思っているのはわたしだけ。
付き合いたい、というか、もっとたくさんの時間を一緒に過ごしたいと思っているのはわたしだけ。

必死に見つめて、さりげないそぶりで情報も集めて、そっと姿を追いかけて。
それでもそばにいたいと思って口に出した言葉は、本当、最悪な口説き文句だったなあ、と思う。

そんなわたしに対し、彼はとても優しかった。

噂なんて本当にあてにならない。誰とでも付き合ってくれるけれど、冷たい?
そんなこと、ない。わたしは全力で否定する。

それに、彼は弁えてくれている人だ、と思う。
なぜって彼は、図々しく彼氏気取りでわたしの名前を呼んだりしないのだ。
呼ぶのは名字だけ。彼氏彼女なんだから、名前で呼んでくれてもいいのに。

……ああ、そういうところが冷たいって思われるところなのかも。

でも彼は誠実な人だと思う。
わたしの気持ちと自分の気持ちが釣り合ってないことを理解していて、それをちゃんと覚えていてくれる。
呼び方ひとつで、伝えてくれる。

ーーーーわたしね、なんでもよかったよ。

もっと近くに行きたかった。触れられたかった。
でも彼は、弁えてくれる人だから、絶対にいい加減なことをしなかった。

わたしなんて最悪な彼女だったと思う。

いつも彼の周りにいた彼女たちのように、綺麗なわけじゃない。スタイルだって優れているわけじゃない。どんなに頑張っても平凡でしかないわたしを、それでも彼は、失望することはなかった。面白がるように笑って、付き合ってくれた。

だから、いつまでも名前を呼んでくれないことに不満を抱いているなんて、わがままなんだと思う。
でもそのわがままが、大きくふくらんでしまって、わたしは別れを告げてしまった。

いつまでも、わたしはあなたの彼女になれないのかな。
頑張ってわたしを見せても、あなたはわたしを好きになってくれないのかな。

そんな不安に、わたしは負けてしまった。

こっそり姿を追いかけること、噂を聞いてドキドキと胸を高鳴らせること。
偶然会うことができたら、とてもとても嬉しく感じられること。

それらの権利、全部手放しちゃった。

名前で呼んで。
そう言えばよかったのかなあ。
もっとわがままを言えたらよかったのかな。

お試しで付き合ってくれませんか、なんて、最悪な口説き文句だったよ。

033:わたしの名前▼
(現代もの。女子高生)

32のお題「楽しかったよ!!!」の彼女バージョンです。ぶっちゃけ、彼女は彼の行動を深読みしすぎていたんじゃないかなあ、と思います。でも好きな相手の行動を深読みするってよくあること。名前を呼んでくれと言えば、彼は呼んでくれていたと思いますが、自分から呼んでくれたわけじゃない。親しみを覚えてくれたわけじゃない、親しもうとしてくれたわけじゃない、ということで彼女はまた悩んでいたのだと思います。だから終わるしかない、ということで別れを告げて。もう好きでいられない事実がとても苦しい感じ。

2019/10/19

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