NOVEL– category –
-
廃園遊戯
砂漠の水
「雨が降りませんね」 すべての事後処理を終え、3日が過ぎた日のことだった。昼食を持っていくと、ぽつりと有能な副官が呟いた。その言葉を聞きとがめてエミールは目を瞬かせた。その言葉の意味を訊ねようとして、その前に渡すべき盆を思い出した。 「副官。... -
廃園遊戯
英雄
「将軍〜、どこですかぁ~」 雲ひとつない見事な青空だった。からりとした空気に流れる風は心地よい。だからうっとうしいのは、すでに泣きが入っている自分の声だけだろうと若者は思う。 (皆さんもひどいよなあ。僕なら見つけられるって、そんな根拠はど... -
廃園遊戯
夢
恩人なのだ、と、巨体を見上げる少女は呟いた。船員たちは傍にいない。島の探索に出たということもあるが、なにより、少女の様子に気を遣ったのだ。 アルセイドだけが少女に寄り添って、ゆっくりと呼吸する大きな身体を見つめていた。 流れる優美な身体、... -
廃園遊戯
竜の眠り
雨が降り出す前の空気に似ている、と、感じた。 けれど、と、アルセイドは続いて思う。こちらの空気の方がよりかぐわしい。これが生まれて初めて感じる、海の匂いだ。潮の香り、潮の風、共に前方から後方へと流れていく。 不思議だ、と思う。湿っている空... -
廃園遊戯
滲んだインク
髪をすいていく感触は、こんなときでも心地よかった。アルテミシアの髪質は少し厄介で、洗ったばかりでももつれてしまう。鏡で見ると緊張しているらしい新入りの侍女は、そんな厄介な髪を丁寧に丁寧にすいてくれている。つい、微笑んでいた自分に気付いた... -
廃園遊戯
ギルドマスター
「だめだね、船を出すつもりはない。帰んな」(なるほど) 白い少女に連れて行かれたのは、船員ギルドだった。船員は同じ場所にとどまらない。そのために仕事を斡旋したり、情報を交換する場となっている場所である。はっきりと聞き取れないざわめきには、... -
廃園遊戯
切れない絆
鋭く踏み込まれたが、ぎりぎりのところで受け止める。にやり、と、男は笑った。その余裕ある表情を見つめながら、アルセイドは必死に踏みとどまっていた。元々、自警団の一員に過ぎなかった自分である。軍務を長年続けてきた男ほどの技量があるはずなかっ... -
廃園遊戯
呪い
ひと通り少女を診察した医師は、細い手首をシーツの下におさめた。難しい顔で離れた位置に立つアルセイドに向き直る。 「なんですかな、これは?」「なに?」 組んでいた腕を解いて、意外な感で応えたアルセイドだった。唇を引き結んだ初老の医師にからか... -
廃園遊戯
霧深い都市
三日だ。生まれ育った街を出、隣町にたどりついてすでにそれだけの日数が経っている。なのにこの街の人間は何もしようとしない。 「……くそっ」 苛立ちを込めて、アルセイドは両手を窓にたたきつけた。じんと手のひらに痛みが響く。だがそれでも感情は収ま...